いつもLE通信をご覧いただきありがとうございます。代表の多賀井です。
先日、EC事業者の皆さま向けに『生成AI画像活用』の集中セミナーを開催しました。
本号では、その内容を「明日から自社で動かせる」形に整理してお届けします。
当社の実案件で得た知見と作例も交えてご紹介します。
1. なぜ今、EC事業者に画像生成AIなのか
EC運営の現場では、商品点数(SKU)の増加・販促サイクルの高速化・人手不足が同時に進行しています。撮影 → 加工 → バナー → コピー → 投稿という分業フローは、SKUが増えるほど負荷が指数的に膨らみ、セールや季節キャンペーン、SNSのたびに大量の制作物を求められます。一方で撮影・デザイン・ライティングの担い手は固定化しがちです。
ここに期待され、実際効果があるのが画像生成AIです。
ChatGPT(Images 2.0)と Nano Banana Pro を使い分けることで、これまで外注や撮影に頼っていた工程を、少人数でも高速かつ高品質に回せる時代に入りました。まずは全体像を整理したいと思います。

2. まず押さえる用語(生成AI・プロンプト・VLM)
本題に入る前に、社内で共通認識するための最低限必要な用語を記載させていただきます。
| 用語 | かみ砕いた意味 |
| 画像生成AI | テキスト(プロンプト)やラフから新しい画像を自動生成する技術。写真・イラスト・3Dまで幅広いタッチを出せる。 |
| プロンプト | AIへの「指示・質問」そのもの。何をしてほしいかを伝える入力文。 |
| コンテキスト | 指示を解釈するための背景情報・文脈(会話履歴、参考資料、役割設定など)。 |
| VLM(視覚言語モデル) | 画像とテキストを統合的に理解するAI。商品画像から説明文まで“判断”できるようになりつつあり、今後の主流。 |
3. 2つの主役ツールの使い分け
本号では、特徴の異なる2つのツールを紹介します。
ChatGPT(Images 2.0):画像内に正しい文字を描くのが得意。「価格訴求」や「季節のバナー」に最適です。
Nano Banana Pro:複数画像の合成と被写体の一貫性維持に強み。商品と背景、モデルを自然に組み合わせる作業に向いています。
日本語など非ラテン文字の描画精度も大きく改善しました。一方の Nano Banana Pro(Google系)は、複数画像の合成と被写体の一貫性維持に強く、商品・背景・モデルを1回の指示で組み合わせたり、自然言語でローカル編集(「背景をぼかして」等)したりできます。

どちらを選ぶかの目安を、用途別に整理しました。実務では「文字を入れたいか/合成したいか」で振り分けると迷いません。
| やりたいこと | 推奨ツール | ひとことメモ |
| 文字入りバナー・販促画像 | ChatGPT Images 2.0 | 価格・期間・キャッチを正しく配置 |
| 商品×モデル×背景の合成・着用 | Nano Banana Pro | 撮影段取りを大幅に短縮 |
| 背景ぼかし等のローカル編集 | Nano Banana Pro | 文章で部分修正が完結 |
| 複数SNSサイズの一括量産 | ChatGPT Images 2.0 | 縦横サイズを指定して量産 |
※ 料金プランは為替で変動し、無料版・個人向け版は入力データがAI学習に使われる場合があります(設定でAI学習対象から除外(オプトアウト)可能)。最新の料金・規約は各社の公式ページで都度ご確認ください。当社では企業利用の場合、データが学習に使われない法人向けプラン(Google Workspaceビジネス版等)を推奨しています。
4. EC実務との相性 ── 向く用途・向かない領域
生成AIの最大の強みは、商品の形・色・パッケージを保ったまま、シーンやモデルを後から自由に作れる点です。逆に、価値の源泉が「本物性・個別性・事実性」にある領域は、AI生成で損なわれるリスクが大きく、安易な利用は避けるべきです。下図で対比します。
図3 生成AIに「向く用途」と「向かない領域」

判断軸はシンプルです。①本人性・実在性が必須か、②事実性が問われるか、③価値が“一点物”に依存するか。ひとつでも当てはまる領域は、AI量産ではなく人の手や実写を基本にする、という線引きをおすすめします。
5. 現場のワークフローはここまで変わった(実例+作例)
当社の実案件で、制作フローがどう変わったかをご紹介します。象徴的なのが靴のモデル着用カットです。2024年は「他社イメージ収集 → 実モデルで白壁撮影 → Photoroomで背景合成」と1足あたり約60分かかっていました。2026年は、8枚の靴画像とプロンプトだけでモデル着用を1回の指示で生成を完了でき、約10分に短縮。およそ6倍の生産性です。
図4 商品着用カット制作フローの進化(2024→2026)

続いて、実際の生成前 → 生成後の作例を4点ご紹介します。各「実画像を見る」リンクから、当社案件の実際のビフォー/アフターをご覧いただけます。(画像ファイルはGoogleドライブに格納。本文へ直接貼り込む場合は「挿入>画像>ドライブ」から該当ファイルを選択してください。)
図5 生成前 → 生成後 の作例
![]() 作例① キッズシューズ:商品画像 → 兄妹のモデル着用シーン | ![]() 作例② レディースパンプス:単体 → 着席シーンの着用カット |
![]() 作例③ :ウィッグ → 人物着用ビジュアル | ![]() 作例④ メンズ革靴:商品 → 屋外ベンチでの着用カット |

作例⑤ メンズ革靴(別アングル):屋外シーンでの着用カット
ただし、すべてが「1回の指示」で完結するわけではありません。商品カテゴリごとに最適なフローが異なります。代表的な4パターンを整理しました。
| 事例 | 生成前(インプット) | 生成後(AI生成・実画像) |
| ①靴 | 商品単体写真(白背景・複数アングル) | モデル着用カット 作成例① |
| ②ウィッグ→人物( | ウィッグ単体+人物像の言語指示 | 人物着用ビジュアル 作成例③ |
| ③アパレル | 商品単体カット | ライフスタイル着用 作成例② |
| ④靴フロー比較(2024→2026) | 他社イメージ収集(生成前)作成④ | 8枚の靴画像から1パス生成(生成後)作成⑤ |
| カテゴリ | 制作フロー | 現場のポイント |
| 靴 | 参照画像+プロンプトで1パス生成 | 形状・色・ロゴを「絶対に変えない」を最優先で指示 |
| バッグ | モデル生成 → 着用合成 → Photoshopで縮尺調整の3段 | 1パス不可。人物とバッグの縮尺合わせが必須 |
| ウィッグ・顔 | ウィッグ固定+人物像を言語化 → 角度生成 → Photoshop仕上げ | 実在人物の画像はそのまま添付せず言語で指示 |
| 食品・家電 | 白背景の物撮り/特徴インフォグラフィック生成 | パッケージ・ロゴ・成分表記は不変を厳守 |
装飾付き商品の360°回転動画も検証しました。リボンやホログラム素材、ソール内部の装飾といった細部も、回転の全角度で形状・質感を維持でき、商品ページ用の動画として実用に足る品質でした。
6. 社内に「定着」させる3段階導入とプロンプトの資産化
生成AIで成果を出す企業と出せない企業の差は、ツールの性能よりも「社内に定着しているか」にあります。個人が触って終わりではなく、業務フローに乗せることが肝心です。当社が推奨する導入ステップは次の3段階です。
図6 社内に定着させる3段階導入フロー
| STEP 1 Geminiアプリで触る | STEP 2 AI Studioで合成検証 | STEP 3 API化/BPO委託 |
| 自社商品で効くプロンプトを5本ストックし手応えを揃える | 商品+背景+モデルの合成を試し再現性が出るかを確認 | Gemini API またはパートナー委託で業務フローへ組込む |
| 企業利用は Google Workspace(ビジネス版)推奨:入力データが学習に使われず、社内連携もシームレス | ||
そしてもう一つの鍵が、プロンプトを「個人の感覚」から「会社の資産」へ変えることです。共有が進めば、再現性の確保・教育コスト削減・品質のばらつき防止・退職や異動への耐性が一度に得られます。最初の一歩は、スプレッドシートでの一覧管理で十分です。当社では商品画像のプロンプトを次の9項目でテンプレート化し、変数だけ差し替えて運用しています。
| 項目 | 記入のポイント |
| ①参照画像 | 反映したい商品写真を添付(複数可) |
| ②参照画像指示 | 何枚目を何に使うかを明示 |
| ③注意事項(最優先) | デザイン・形状・色・ロゴは絶対に変えない |
| ④情景 | 撮影シーン(例:白壁の光が差すスタジオ) |
| ⑤背景 | 映り込ませない要素を指定 |
| ⑥構図・ポーズ | アングル・モデルの向き |
| ⑦モデル体型 | 年代・体型・肌の質感 |
| ⑧コーディネート | 服・小物・色味 |
| ⑨アスペクト比・出力 | 4:5など+画質(2K/HDR/カメラ指定) |
参考までに、実際に靴のモデル着用カットで使っているプロンプトの骨子を載せます。コピーして変数を差し替えれば、すぐ運用できます。
| 参照画像指示:添付画像1〜7枚目のパンプスを着用した女性の足元の写真を生成。注意事項:履かせる靴のデザイン・形状・色・ロゴは絶対に変えず忠実に再現。情景:白壁の光が差し込むスタジオ/床は薄グレーのコンクリート。背景:白壁以外は何も映さない。 構図:モデルは斜め正面。モデル体型:20代・色白・細身。 コーディネート:細身のストレートパンツ。アスペクト比:4:5 縦長。出力:Ultra photorealistic, 2K (2048×2048), HDR, sharp focus on shoes, Canon EOS R5, 70mm, f2.8. |
この9項目とプロンプト雛形に加え、商品タイトル・説明文(ロング/ショート)・キャッチコピー・レビュー要約・問い合わせ返信・メルマガ・SNSキャプション・比較表といった定番プロンプトを10本ほど揃えるだけで、制作スピードと品質が目に見えて変わります。
7. 商用利用・著作権・表示規制の注意点
便利な反面、運用上の落とし穴もあります。クライアント各社の信用に関わるため、次の点は必ず押さえてください。
著作権・商標・肖像権:ChatGPT・Gemini とも「生成物の権利はユーザーに帰属」「商用利用OK」が原則ですが、競合ブランドのロゴや有名人の顔の再現は規約違反かつ法的リスクです。米国著作権局は人の創作的関与が乏しい純粋なAI生成物には著作権が発生しないとの見解を示しており、社内デザイナーがレタッチやタイポ追加などの人的工程を加える運用を推奨します。
電子透かし:Nano Banana は可視ロゴと不可視のSynthIDを付与します。可視ロゴの除去は禁止のため、レイアウトで切れない位置に配置するなどの工夫が必要です。当社はAdobeのContent Credentialsで来歴を可視化し、検出ツールも併用しています。
表示規制(景品表示法・薬機法):これが最も見落とされがちです。AIで“盛った”画像(実物と異なる質感・色・大きさ・使用効果)は、優良誤認表示として景品表示法に抵触するおそれがあります。商品の実態と乖離した演出は避け、加工範囲を社内ルールで定めてください。健康食品・化粧品・医療機器などでは、画像やキャッチで効能効果を断定・誇張すると薬機法違反となり得ます。生成物のテキスト・ビジュアル双方で、表現の事前チェック体制を設けることを強くおすすめします。
8. AI時代のEC運営論 ─「制作力」から「改善速度」へ
最後に、少し先の話をさせてください。これまでのECは、カメラマン・デザイナー・ライター・コーダーといった分業による“制作力”の競争でした。これからは、ECディレクターがAIオペレーターやブランド監修と組み、誰が一番早く仮説検証を回せるかという“改善速度”の競争に移ります。施策スピードは1週間から1日・数時間へと縮みます。
図7 競争軸の変化:「制作力」から「改善速度」へ
| 【以前】分業による“制作力”の競争 | → | 【今後】AI活用による“改善速度”の競争 |
| カメラマン/デザイナー/ライター/コーダー | ECディレクター/AIオペレーター/ブランド監修 | |
| 施策スピード 1週間→1日・数時間。「AIで量産し、人が価値を定義する」時代へ | ||
誰でも綺麗な画像を作れる時代だからこそ、ブランドの思想や作り手のストーリーといった“本物性”の価値が際立ちます。結論はシンプルです。
「AIで量産し、人が価値を定義する」。AIはあくまで道具であり、ブランドそのものは人が設計するものです。
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