営業やさまざまな職種で「折衝」という言葉が使われます。しかし、多くのビジネスマンにとって折衝の意味を正しく知る機会は少なく、「交渉」との違いを上手く説明できないでしょう。
しかし、折衝はコミュニケーション能力やヒアリング力を柱とした重要な力です。そこで、顧客折衝の意味やメリットについて詳しく説明し、各種スキルを磨いて顧客折衝能力を高める方法を紹介します。
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目次
顧客折衝とは?
まずは、顧客折衝の意味やその目的、交渉との違いについて説明します。
顧客折衝の意味
顧客折衝は、利害の一致しない相手(顧客)に対して提案を行い、妥協点を探し出すことです。ビジネスシーンだけでなく、さまざまな職種でも現場で顧客折衝は行われています。
そのため、「折衝力」と呼称する場合には、ビジネスシーンや顧客対応を生業とする職種において、欠かせない能力の1つに数えられます。なぜなら、折衝を通じて顧客との良好な関係を築き、顧客の納得がある対応をする必要があるためです。折衝力があれば、ビジネスや営業のときに合意の多少難しい相手でも妥協させられます。
折衝の目的
折衝の目的とは、利害が一致しない相手との妥協点を見つけ出すことです。端的に言えば、自社にとっても顧客にとっても利益のある結果を得ることです。自社が不利益にならないラインを維持して、顧客にも納得のいく位置を探り当てます。つまり、顧客が「これはWin-Winの関係だ」と握手し、長期的な関係を結べる段階に至ることが最終的な目的です。
折衝と交渉の違い
営業で使われる用語として、折衝と似ているのが「交渉」です。折衝は利害関係の一致しない相手との対話が必要ですが、交渉では利害関係とは関係なくさまざまな相手と対話し折り合いをつけます。すなわち、折衝と交渉は対話相手の範囲が異なるわけです。
例えば、折衝の目的は、自社と顧客の共通利益を探り出すことですが、交渉はあくまでも自社利益の最大化を目指すことが目標として設定されます。交渉は利害関係の一致した顧客を納得させるため、利益の最大化を期待できます。折衝の場合、利害関係が一致しない顧客を納得させるには労力が大きいため最大化を最初に目指しません。
顧客折衝力を生かせる職種
顧客折衝力はさまざまな職種に使われており、それを意識して特定の職種で積極活用することが折衝を通じた妥協をスムーズにします。以下の3つの職種「営業職」・「接客業」・「システムエンジニア」が代表的です。
営業職
折衝という用語がよく出てくる職種が「営業職」です。営業職では、自社の利益を確保したまま顧客の要望に応えるために価格や品質、サービス性などから、利益を割らないラインで顧客の納得を得ることが大事です。
それには折衝力を始めとしたスキルを磨いて現場に活用することが求められます。顧客折衝力があれば最大限に力を発揮できる職種が営業職です。
また、折衝力は営業の資質を図る方法としてや人事考課(評価制度)の一部として導入されていることも珍しくありません。
接客業
接客業ではマニュアル対応が広く浸透していますが、その一方で柔軟な顧客対応が経営者だけでなく従業員にも求められています。そのことから、顧客折衝力を必要とする職種です。
飲食店の中にはクレーム内容をあえて収集・掲載し、自社の運営に活かす方法を採用する店舗もあります。「顧客が何を求めて店舗に足を運んでいるのか?」を聞き出し、両者の利益となるように妥協点を探り出すことが折衝の具体的な手段となります。
決して、顧客折衝力が必要なのは経営者のいる上層役員だけではありません。わかりやすいところでは、衣服店の店員や保険・旅行などの窓口従業員など、折衝に直接あたる人員の折衝力が高いことが、リピーターやファンを生み出すきっかけとして結果に出ます。
システムエンジニア
エンジニアは、IT分野で技術に特化した職業ですが、実態としては顧客とのコミュニケーションを積極的に実施する職種として知られています。事前の打ち合わせや不具合の解消など、具体的な業務の中で発生する折衝だけでなく、顧客に対してエンジニア側が難しい用語を使わないで納得させるための説明をするなど、さまざまな場面で折衝力が必要です。
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顧客折衝能力を構成するスキル
顧客折衝能力にはそれを構成するスキルがあります。ここでは、信頼形成力やヒアリング力など、中心となる5つのスキルを紹介します。
信頼形成力
顧客折衝能力で重要となるのが、顧客との信頼関係を築くために、事前に信頼を持たれるような話術や環境構築などの信頼形成力です。営業等では心理学的な方法論を活用するケースも多く、「ミラーリング」や「ペーシング」のようなコミュニケーションスキルとして信頼形成力に落とし込んでいます。
例えば、ミラーリングでは、仕草やクセを真似ることで親近感をわかせることができます。これを応用して、ミラーリングに会話技術を加えたペーシングでは、口調なども真似ることで相手の信頼感を得て、折衝を有利に運べます。
ヒアリング力
顧客の妥協点を探るためには、相手の話を注意深く聞いて、ニーズや欲していることを見つけ出します。相手の聞く力、すなわち「ヒアリング力」のスキルを高めることはそのまま顧客折衝能力を高めることに繋がります。
現場では、即興で両者の利益が得られる位置を探るためにヒアリングで見抜くスキルを活用します。顧客の本当のニーズを探して、折衝で両者の納得を探るにはヒアリング力が不可欠です。
プレゼンテーション力
会社の会議などでも重要とされるプレゼンは、「プレゼンテーション力」によって支えられています。それが社内向けか社外向けかという違いがあるだけで、基本的に折衝においてもプレゼンテーション力が重要なスキルの1つです。
伝えたい両者の利益があり、妥協点や目標も決まっているのに、相手にそれが上手く伝わらないのでは、準備やヒアリング力で得た説得材料を使いこなすことはできません。プレゼンテーション力を上げて、妥協点に導けるようなスキルを高めることも顧客折衝能力の一部です。
折衝力
ここでの折衝力は、経営やマーケティングの総合的な顧客折衝力ではなく、知識や思考を含んだ現場でリアルに対応するための接客や対話時の折衝力を指します。上記のスキルを活用しながら、実際に折衝を通じてさまざまに状況が変化する中で望む結果へと説得するのに欠かせないスキルです。そのため、顧客折衝能力の中でも最重要な能力です。
クロージング力
両者の納得のある場所を見つけることで得られる最終的な合意・同意のことをクロージングと呼び、折衝の締めを決定づけるスキルが「クロージング力」です。折衝の中で出た両者の納得できる利益を明確にすることで、合意を確約することを指します。
顧客折衝力を身に着けるメリット
顧客折衝力には身につけることで得られるメリットがいくつかあります。
コミュニケーション能力が高まる
まず、顧客折衝力はコミュニケーション能力を高めることに繋がります。本来は職種における営業や接客業などで活用される能力ですが、その力を支えているスキルの根本は、顧客を対象にヒアリングや話術といった「聞く・話す」という基本的な能力です。まさに他人とのコミュニケーション能力を構成するスキルの根幹と同じです。
また、相手を納得させたい場面で具体性のある提示ができるようになるなど、コミュニケーション能力の高まりを実感できるのもメリットでしょう。
もちろん、コミュニケーションは、折衝の利害一致とは関係なく、相手と対話をするため、利益を求める必要は必ずしもありません。ですから、折衝力やクロージング力は求められませんが、コミュニケーション能力を高めると顧客折衝力が高まることから、基本的で簡単な方法といえます。
相手の考えや視点に立てる
ビジネスシーンでは、自分の考えばかり優先して、相手のことを考えなければ、独りよがりな結論を得てしまう、スムーズに相手を納得させられないといった問題が生じます。そこで、顧客折衝力を身に着けることで、相手の話を聞いて、考えや視点を共有できることです。上手に説得や対話を試みることが可能です。特に議論の紛糾や話し合いのこじれなどに対しては解決手段の一助となり、大きなメリットとなるでしょう。
思考が柔軟になる
意見をぶつけるだけ、主張を貫くだけでは、相手の説得や納得を得られないことが多いのが現実の社会というものです。問題を解決し、意見をまとめて妥協点を探るには思考が柔軟でなければならず、それは顧客折衝力を身に着けることで得られます。完全な自分だけの利益を追い求めようとしては見つからない解決策や結論であっても、思考が柔軟になることで解決策や結論を得られます。
物事を深く分析できる
顧客折衝力に求められる洞察力は、そのまま普段の物事を深く分析するための思考ベースにもなりえます。さまざまな相手に対して折衝を重ねて身につく力であることから、場面によって最適な解を見つけるための分析能力を獲得すると同時に、分析効率も高まります。
身近な同僚や上役との会話、顧客との折衝など、物事を深く分析してさまざまなことがわかるようになるのは大きなメリットでしょう。
クリティカルシンキングができる
クリティカルシンキングができる力は、顧客折衝力を鍛える中で獲得できます。クリティカルシンキングは、批判的思考と訳されますが、その基本は論理的に物事を考えるための思考枠組みです。
根拠を明確にして、怪しい主張に対しては、批判的に論理性を検討できます。これを意識的・無意識的に行うことで、最適な結論を得ます。
実際、会社や組織に属している人でも主観的な意見や私的な考えで物事を決めることは珍しくありません。しかし、それだけでは良い判断や冷静で最適な結論を得ることはできないのです。クリティカルシンキングができるだけでも会社や組織の一員として、判断力に優れるなど、思考力という点で大きなメリットや恩恵を得られます。
相手にとって適切なサポートができる
顧客折衝力の中心的なスキルの中には、相手の視点から物事を考えて、理解することが含まれます。そのため、顧客などの相手に対して営業が適切なサポートを行えるというメリットがあります。
一般的に、顧客折衝力のないスタッフが対応したことでトラブルが起きるケースもあるでしょう。顧客を蔑ろにし、折衝や話し合いが上手くいかず、契約や受注が御破算になるなどです。適切なサポートができる人材が営業にいるだけで自社にとっての大きな力となるのです。
就職や転職で役立つ
営業等で培う顧客折衝力は、さまざまな会社でも役立つため、就職や転職で役立ちます。単純に顧客折衝力を書類審査や面接で示せれば採用に対する優位となります。
しかも、顧客折衝力を示すだけの実績を具体的に提示できれば、就職や転職の切り札としての効果を発揮します。具体的にどのような折衝によって営業で役立ったのかやリアルな話を持ち出せるように記録や日記などを付けて、詳細を採用担当者に語れるようにしておけば面接でも万全の準備ができるでしょう。
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顧客折衝能力を上げる方法
顧客折衝能力は顧客との納得できる位置を探せる重要な能力ですが、意外と知られていないのがその力を上げる方法です。とにかく現場(営業)をこなすというやり方では力は身につきません。そこで、具体的な方法を以下に紹介します。
傾聴力を高める
相手の話を聞く「傾聴力」を高めることは、顧客折衝能力を上げる方法の1つです。心理カウンセリングで使われるスキルのため、傾聴力は相手から引き出したい話や心理分析になどに役立ちますが、それを応用することで顧客折衝能力に必要なヒアリング力を底上げします。
例えば、対話時に目線を外さない(目をしっかり見る)、柔和な雰囲気を出す、ジェスチャー・相槌や問い返しなどを積極的に行うなどです。これらの些細な手法が傾聴力として有利に話を聞く姿勢となります。
思いやりの気持ちを持つ
顧客折衝能力を支えるのは相手の視点に立つスキルであり、思いやりの気持ちを持つ事が欠かせません。顧客折衝能力を上げる方法の中には、思いやりの気持ちを持つことで自然と相手の立場や視点に立てるように自分を誘導するというものがあります。思いよりの気持ちは、相手にも伝わって折衝を有利に運びます。
論理的な思考を持つ
折衝による相手の説得や納得の位置を探る行為は、論理的にすることで探る精度を高めます。つまり、顧客折衝に不可欠な能力を論理的な思考を持つことで高めることも可能です。
しかし、論理的思考を具体的に実践しようとしても難しいでしょう。そこで、仮説(主張)・データ・根拠の3つを基本として、自分や相手の思考・言論が論理的か否か、普段から当てはめます。まずは、ビジネスレベルの考え事や商談を論理的な思考にすることから始めましょう。
提案力を上げる
営業では商品やサービスを提案して初めて折衝の結果が得られます。そのため、折衝で商品やサービスを売り込む場合には特に、顧客折衝能力を高める方法として提案力を上げる事が方法として挙げられます。
具体的には、相手のニーズを取り込んだ適切な提案をすることです。しかも、提案は1つではなく、複数用意しておくことも提案力を上げるには必要です。
提案が1つの場合、想定外の折衝結果により、「たった1つしかない提案が破棄されてしまう」というリスクが生じます。しかし、複数の提案を用意しておけば第一候補の提案が破棄されても次の提案があるという安心感の中で折衝を進められます。
伝え方を学ぶ
物事は伝え方1つで印象が大きく左右されます。日本では、話しの運び方として多い起承転結が折衝では不利に働くのです。そこで、欧米を中心に発展してきた経営やビジネス面の折衝では、結論を最初に伝えて、そのデータや根拠は後に伝えることが印象を結論へとひきつけやすくなります。
つまり、営業などで結論ファーストを意識的に使うのであれば「PREP法」が有効です。意識してこの方法論を使えば、折衝をする際の話の進め方にもプラスに働き、伝え方を学ぶことで顧客折衝能力を高めます。
フィードバックをもらう
顧客折衝力は個人で能力を見極めることが難しい力です。そのため、折衝の際に事前に上役や管理者などにフィードバックをもらい、折衝力のレベルを確認することが大切です。
折衝に必要となる力が足りないにもかかわらず、そのフィードバックなしで折衝の本番に挑んでも良い結果は得られないものです。フィードバックを得て折衝力を十分に検証し、不足していれば能力を高めるための方法や提案の修正を試すなどして、確実に経験やスキルを積み上げましょう。
まとめ
今回は、顧客折衝の意味や「交渉」との違い、メリット、能力を高める方法について解説しました。
顧客折衝はビジネスシーンには欠かせない力であると同時に、さまざまな職種で役に立ちます。そのため、ビジネスにおけるヒアリング力の重要性、クライアントの要望を聞く力の必要性を確認することが大切です。
顧客折衝力はトレーニングで伸ばすことができる側面もあるため、そのためのスキルを知り、メリットを得られるようにぜひ身に着けましょう。
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