新型コロナウイルス感染症の影響によるオンラインショッピングの活況とそれに伴うEC参入企業の増加、就労人口の減少などを背景に、ECおよび物流等の周辺業界では人手不足が深刻な問題となっています。今は新たにEC担当者を採用したいと考えていても、経験豊富なEC人材は不足傾向で期待する人材を採用するのはかなり難しい状況です。であれば未経験者を採用し、教育しながら自社で一から育てていくという選択肢が現実的でしょう。
もちろん手間もコストもかかりますが、長期的な視点で見ると自社でEC人材を育成することは戦略的にも多くのメリットがあります。本記事では、EC業界における未経験者の人材育成にポイントを絞って解説します。
目次
EC業界が人材不足に陥っている4つの理由
はじめに、ECサイトの運営を担う人材確保が難しくなっている理由を考えてみます。人材不足の要因は「需要に供給が追い付かない」または「入ってくる人材が少ない/出ていく人材が多い」のいずれか、もしくは両方です。ここでは4つの要因に分けて紹介します。
理由1.市場拡大に伴い人員需要が増大
経済産業省の発表によると、2019年の国内BtoC向けEC市場規模は、19.4兆円、前年より1.4兆円も増加しています。市場規模の推移を見ても右肩上がりに拡大している市場で、今後もこの流れはつづくと見られています。
さらに新型コロナウイルス感染症の影響で外出が減り、オンラインショッピング利用が増加しています。それにより物販を中心にオンラインシフトが加速しており、EC人材の需要が増大しています。
理由2.そもそも業務量が多く人員が必要
ECサイト運営業務は、後述するように業務内容が多岐にわたります。さらに担当人員が少ないほど1人が担当する業務は増え、中には商品企画からマーケティング、梱包・発送から顧客フォローまで、全て1人で担当する場合もあります。データ処理などこまごまとした事務作業も多く、全体的な業務量に対して慢性的に人員が不足している状況です。
ただこの場合は、人員を増やす選択肢のほか、システム化やAI・RPAなどの導入で業務を自動化・省人化することで必要な人員数を押さえ業務負担を減らせる可能性があります。またアウトソーシングの活用でも改善が期待できます。
理由3.仕事に魅力がなく、応募が少ない
EC担当者は職種として認知度が低く、就職・転職する際に指名して応募する人は少ないことが考えられます。成長市場で高い需要がある反面、エンジニアやマーケターなど他の職種と比べてキャリアパスが描きにくい点も人気に影響している可能性があります。転職サイトを見ても、キャリアパスについて言及している企業は少数です。
理由4.定着率が低い、離職率が高い
EC担当者として採用された後に、想像以上に仕事がきつい、思っていた業務内容と実際の業務内容にギャップが生じた、労働時間が長い・休日が少ない、等の理由で離職率が高いことが考えられます。
華やかなイメージを持って入社したものの、地道な業務が多く、ルーチン作業ばかりで新しいチャレンジができないという声もよく聞かれます。また売り手市場ということもあり経験を積んでより好条件の職場へ転職しやすいため、待遇や職場環境が整っていない企業ではすぐに離職されてしまいます。
離職率が高いと、採用コストや求人媒体への広告費、教育にかけた時間や費用が全て無駄になってしまいます。新規に採用することも大切ですが、その後で離職しないよう職場環境を整えるなどの対策を行うことが重要です。
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なぜ人材育成が必要か
人材育成とは、採用したスタッフが自社に貢献できる人材になるよう知識やスキルを身につけさせることです。
人材育成をおこなうメリット
人材育成をおこなうことで以下の効果が期待できます。
【企業側】
・組織に必要な能力を持った人材を育てることで、企業の課題解決に役立つ
・学習やスキルアップの機会を提供することで、スタッフの満足度を高め、離職を防ぐ
【スタッフ側】
・業務に必要な知識・スキルを身につける機会を得られる
・成長の場を与えてもらえることで、仕事へのやりがいや企業に対しての信頼が高まる
EC担当者に求められるスキル
EC担当者の業務は多岐にわたるため、必要なスキルも幅広いです。企画力にはじまり、HTML・CSSの知識、ITリテラシー、外部企業との折衝能力、マーケティング力、事務能力、顧客とのコミュニケーション能力などが求められます。またコンテンツ制作能力のほか、最近では動画活用やSNSのスキルも重要度を増しています。
これらのスキルを全て身につけるのは並大抵のことではありません。企業が短期間で効率的に教育するためには、①社内の体制・ドキュメントを整える、②人材育成スケジュールを立てる、ことが不可欠です。
EC運営担当者を育てるために企業が準備すべきこと
EC未経験者を採用した場合、自社の戦力となる担当者に育てるために、組織側では以下のような準備が必要です。
社内体制の整備
社内の教育制度が不十分だと人材が育ちにくいうえ離職率も高くなります。未経験者を採用する場合、経験豊富な担当者がメンターとしてサポートするのが理想的です。逆に前任者の退職等の都合で引き継ぎもままならないうちに丸投げしてしまうのは最悪のパターンです。
新担当者が業務でわからないことがあった場合に、質問できる、支援できる体制を整えておきましょう。
また人事評価制度を整えることも重要です。せっかく頑張って働いているのに上司や経営者がEC運営に対して理解が低く、正当な評価がされないとスタッフの意欲低下に繋がります。
働くモチベーションを保つためにも、努力や成果に応じて評価される制度が整っていない、評価基準が不透明といった場合には、一度基準を見直す必要があるでしょう。
マニュアル・ドキュメントの整備
少人数のチームでECサイトを運営している場合、業務が属人化され「その人しかわからない」状態になってしまうことがあります。特にEC担当は細かな業務が多く、担当者のカンや経験に基づいて作業を進めることも少なくありません。
しかしEC担当者を育てるためには、業務内容をマニュアル化し、標準化しておくことが必要です。資料として残すというだけでなく、標準化することで、誰がやっても同じ結果を得ることができます。さらに将来的には、業務の自動化を検討することも可能です。
また業務委託先の情報やシステムのID・PW、必要な設定などは、ドキュメントとしてまとめておくとスムーズです。
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EC人材育成スケジュールの例
ここでは、EC業界未経験者または経験が浅い人を採用したと想定した人材育成スケジュールの例を紹介します。一般的には3か月~1年くらいの期間で、【①業界全般について知る】→【②基本業務を理解する】→【③自社運営サイト固有の業務を理解する】の流れで業務知識を身につけていきます。
「EC担当者」と一括りで捉えられがちですが、その業務範囲・内容は企業の状況によって大きく異なります。たとえばメーカーがECサイト経由で消費者に直接販売するD2Cと、仕入れた商品をAmazon・楽天などのモールで販売するショップとでは、同じEC担当者と言っても作業内容に大きな差があります。
そのため人材育成の内容も企業ごとにまちまちですが、一般的にはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)と呼ばれる、実務をこなしながら経験を積ませて知識やスキルを身につけさせる方式が広く行われています。
人手が足りないため研修に時間が取れないという事情も影響していますが、OJTには自社に合った業務内容を教えられる、短期間で実務を覚えられる、といったメリットがあります。 しかしOJTだけだと、基本的な知識を体系的に学びにくい、トレーナーの時間負担が大きくなる、というデメリットがあります。
そのため、企業による偏りがすくなく共通する内容が多い①と②については、書籍・eラーニング等で自主学習してもらう、外部セミナーに参加する等の方法も検討するとよいでしょう。また厚生労働省が実施している教育訓練給付制度には、WebデザイナーやWeb担当者、Webマーケティング講座などもあるため、そのような補助金制度を活用するのも手です。
①EC全般について知る
そもそもECとは何か、どのようなしくみで成り立っているのかを学びます。例としては、以下のようなことを学びます。
・ECの定義、市場規模
・主要プレイヤーの動向、ビジネスモデル
・自社ECとモール型の違い
・ECのトレンド(D2C、デジタル接客等)
・用語解説、ITリテラシー
【ゴール】ECの全体像・基本的な知識を理解する
②基本業務を理解する
ECサイト運営において基本となる業務について学びます。企業によってはコールセンター業務や出荷対応をアウトソーシングして自社では扱っていない場合もありますが、知識として理解しておくことで業務の全体像が把握できます。
・フロント業務(商品企画、プロモーション、マーケティング)
・バックエンド業務(受注、梱包、出荷、顧客問合せ対応、ささげ業務(撮影、採寸、原稿))
・サイト運営業務(Webサイト構築・更新作業、SEO対策)
【ゴール】EC運営に関わる基本的な業務内容と業務の流れを把握する
③自社運営サイト固有の業務を理解する
自社サイトでの業務の流れや内容を理解します。この部分についてはOJTで実際に手を動かしながら学ぶことが多いです。自社で導入しているシステムやツールの操作方法も学んでいきます。
・自業界の特徴
・顧客属性
・商品の特徴
・自社の業務フロー
・顧客とのコミュニケーション施策、SNS運用
【ゴール】自社の業務フローおよび作業内容を理解する、年間を通じたビジネスの流れを把握する
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EC人材育成のゴール
人材育成のゴールを明確にしないと、採用後に自社の求める人材と本人との間にギャップが生まれてしまう可能性があります。人材育成を行う際には、「どのような人材を育てたいのか」「どんなスキルを身につけてもらいたいか」というゴールを設定しておくことが重要です。●×業務ができるようになる、といった短期的なゴールよりも、長期的なゴール設定が望ましいです。
ゴールを設定した後に、それを実現するための計画を立てていきます。また目標管理やタレントマネジメントを支援するツールの導入も有効です。
企業の売上に貢献する
ECサイト運営の目的は、売上を上げることです。そのために「売れる商品を開発できる、企画力のある人材を育成する」「顧客とのコミュニケーションを良好にできる、SNS活用に長けた人材を育成する」など、スタッフに必要なスキルを身につけてもらい、売上に貢献できる人材に育てることをめざしてゴールを設定します。
例)
・1年後に新商品を3つ企画し、少なくとも1個は販売開始する。200個を売上目標にする。
・SNSによる情報発信を最低週に2回行い、半年後までにInstagramのフォロワー数を現在の2倍に増やす。
生産性向上、業務効率化を実現する
「課題解決力を身につけ、業務フローの改善を行える人材を育成する」「ITリテラシーが高く、システム化による効率化を推進できる人材を育成する」など、質の高いスタッフを育成することで改善提案できる人材を育てることをゴールに設定します。
例)
・担当者ごとにバラツキがある業務を見つけ出し、標準化して作業量を20%減らす。
自発的に学ぶ人材を育てる
EC業界は最新技術を次々と取り入れ、変化が早い業界です。業界の動きをキャッチアップして必要なスキルを見つけるためには、スタッフが自発的に学ぶようになることが不可欠です。
上記2つとは異なりますが、自己学習に対する補助や資格取得時のインセンティブなど、自発的に学ぶ人材を育成するための環境づくりも重要です。
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EC人材の育成、教育ご相談ください!
EC担当者は業務量も多く、必要なスキルも多岐にわたります。そのため即戦力を採用したい、自社で人材育成をおこなうのは非効率だ、と感じる企業も少なくありません。
しかし根気よく教育を行っていくことで、自社にとって必要なスキルを持った有能な人材を得ることができ、結果的にはスタッフの満足度向上、離職防止にも役立ちます。
重要なのは、担当者任せで教育をおこなうのではなく組織として「人を育てる」環境・しくみをきちんと整えることです。そのためには本記事でも触れているように、適切なゴール設定やモチベーションを落とさない評価制度の導入などが必要です。
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