日々のデザイン業務では、写真の配置や文字のレイアウトを通して「情報を視覚的に整理する」作業を行っています。
こうした制作物は、印刷物でもWebでも、必ず専用のデザインソフトを使用して作成されます。
長年この領域では、Adobe(アドビ)のIllustrator・Photoshopが業界標準として使われており、印刷会社・デザイン会社・制作チームの大半がAdobe前提で動いているため、「デザイン=Adobe」という状態が続いていました。
しかしAdobe製品は高額で、クリエイティブの敷居が決して低いとは言えません。
2011年までは買い切り型でしたが、Illustrator・Photoshopなどのよく使うソフトがセットになったパッケージは約20万円弱くらいの価格でした。
当時デザイナーを目指して勉強中だった学生の私にとって大きな出費でしたが「一度購入すればずっと使える」という理由で思い切って購入したことを覚えています。
ところが2012年、Adobeは買い切り型から月額7,780円のサブスクリプション型(Creative Cloud)へ移行しました。
初期費用は下がり、常に最新バージョンが使える点はメリットでしたが、月額制としては高額で、デザイナーにとっては「永続的に支払い続ける必要がある」という新しい負担が生まれました。
この変化に、当時から不満や戸惑いの声が多かったことを記憶しています。
さらに2025年8月には月額9,080円へ1,300円の値上げが発表され、デザインソフトのAdobe一強体制に対する危機感がより強く浮き彫りになりました。
こうした背景の中で注目されているのが、Affinity(アフィニティ)というデザインソフトです。
Adobeと同じように写真補正やレイアウトができるソフトで、もともとは1万円前後の安価な買い切り型として提供されていました。
その後、Canvaによる買収を経て、2025年10月に完全無料化され一気に話題となりました。
ツールの無料化は単なるコスト削減に留まりません。
これまでデザインソフトの導入ハードルの高さから遠ざかっていた人にとっても、気軽に触れることができる環境が整い、制作現場に新しい選択肢が広がりました。
目次
Affinity検証と導入
では実際にAffinityはデザインソフトとして使えるのか。Adobeと比較してどうなのか。Adobe製品を15年以上使ってきた立場から、使用感をまとめました。
・Affinityの使用感
Adobeの制作フローに慣れている身としても、Affinityの操作はほとんど違和感なく扱うことができました。レイアウトの考え方やツールの配置が似ているため、切り替えても迷いが少なく、作業をそのまま続けられる印象でした。
複雑な効果やスクリプトなど、一部Adobe独自の機能はありませんが、日常的なデザイン業務の大半は問題なくこなせる印象でした。
画面構成がシンプルで、必要な機能が見つけやすいため、慣れればデザイナー以外の方でも簡単なイメージ作成や資料作成に十分活用できると感じました。
(左:Affinity/右:Adobe Illustrator)
・軽量な動作
Affinityは全体的に動作が軽く、起動・保存・描画などがスムーズです。特にAdobeで重くなりがちな「画像を大量に扱う案件」で快適さを実感しました。PCの必要スペックがadobeほど高くない点も良いポイントです。
・Adobeデータの読み込み検証
Illustrator(AI)、Photoshop(PSD)、PDFなどのAdobe形式をAffinityで開き、文字のズレ・画像リンク・レイアウト崩れなどをチェックしました。
検証の結果としては、以下の通りです。
- 一般的なデザインデータはほぼ問題なく開ける
- テキストは崩れるケースがあるため、アウトライン化が推奨
- 古いデータや特殊効果を使ったファイルは微調整が必要
日常の実務で使われるデータであれば大きな支障はないものの、最終入稿前の細かな品質調整はAdobe側で行う方が安全です。
使って気づいたこと
特に大きな発見だったのは、Canvaで作った素材がAffinityで再編集できるようになった点です。
これまで、Canvaで作ったデザインはCanva内でしか編集できないという制約があり、細部を詰めたり微調整することは不可能でした。
Canvaで作ったSVGやPDFをAffinityに読み込んで、各要素を分解し、個別に加工できるため、企画段階で作られたラフを、そのまま制作段階の素材として引き継ぐことが可能になりました。
これまで「Canvaで作ったものは限界がある」とされていた部分を、Affinityが補完する形です。つまり、「Canvaでスピーディに構成→Affinityで高品質に仕上げ」というフローが実現します。
Canva × Affinityによる制作効率化の実例
実際に、CanvaとAffinityを組み合わせた制作フローがどれほど効果的かを検証するため、ダミーとして「クリスマスセール用バナー」を1点制作してみました。
制作の流れは以下の通りです。
①Canvaでテンプレートを利用し、全体の構成とテキスト配置を素早く組み立て(約10分)
Canvaはテンプレートが非常に豊富で、デザインの骨格を短時間で形にできます。

②CanvaのデータをSVG形式でダウンロード
SVG形式であれば、テキスト・図形・レイアウト情報を保持したままAffinityで開くことができます。
③Affinityに読み込み、細部の調整・仕上げ作業へ(約20分)
細部のバランス調整、フォントの変更、全体の色味や背景色を調整して仕上げ。

結果として、従来2時間以上かかっていたバナー制作の作業が、わずか30分程度に短縮できました。これはあくまでテストで制作した事例ですが、実際の業務でも同様の削減効果が期待できます。
Affinityは、無料化によって導入のハードルがゼロになっただけでなく、Canvaとの連携によって「制作のスピード」と「仕上げの品質」を両立できるツールとして非常に大きな可能性を持っています。
※Canvaの一部素材やSVG形式の書き出しには有料プランの登録が必要です。
Affinity/Adobeの比較
AffinityとAdobeどちらが優れているのか、どちらを導入すべきかについて以下にメリット、デメリットをまとめました。
●Affinityのメリット
- 無料で導入できるため、誰でも気軽に試せる
- 動作が軽く、保存や読み込みがスムーズ
- Canvaと連携して制作できる。
●Affinityのデメリット
- 印刷会社の多くはAdobe形式前提のため、最終入稿はAdobeが必要
- 特殊な効果を使ったAdobeデータでは微調整が必要な場面もある
- 業界全体の利用率がまだ低く、データ共有時に形式を調整する手間がある
●Adobeのメリット
- 印刷会社・外注先・制作会社との連携がスムーズで、業界標準として安心感がある
- 細かな表現や複雑な加工に強く、デザインの幅が広い
- スクリプトやプラグインにより大量制作や自動化が可能
●Adobeのデメリット
- サブスク料金の負担が大きい
- 動作が重くなりやすく、高スペックなPCが必要になることがある
このように、どちらが優れているかではなく、用途や役割によって向き不向きが分かれるため、目的に合わせてツールを選ぶ必要があります。
プロのデザイナーの場合、当面はAdobe製品を中心に使用しつつ、Affinityを必要に応じて併用するパターンが最も現実的です。
今後、印刷会社・外注先・制作会社などの環境にもAffinityが普及してくれば、AdobeからAffinityへ切り替える選択肢も徐々に広がっていく可能性があります。
デザイナー以外の方への影響
Affinityが無料化されたことで、デザイナー以外の方が「ちょっとした修正」を自分で行えるようになりつつあります。
たとえば次のようなケースです。
- 提案資料の中で写真を入れ替えてみたい
- バナーの初期イメージを、言葉ではなく図案で伝えたい
- 社内用の簡単な図版やレイアウトを自分で作ってみたい
こうした場面では、Affinityを使うことで「デザイナーに依頼する前段階の作業」を自分で試すことができます。

この「初期のイメージ共有」が整うと、その後の制作が今までよりもスムーズになります。
言葉だけでは曖昧になりがちな内容も、簡単なビジュアルがあるだけで方向性が把握しやすくなるため、認識の齟齬を大幅に減らせます。
AffinityにはAIによる背景削除・自動補正なども搭載されており、アイデア段階のビジュアル作成にも向いています。
ツールを共有できることで、外注先や社内メンバーとのコミュニケーションロスが減り、本来検討すべき内容や方向性の議論により多くの時間を割くことができるようになると感じています。
無料化がもたらす「デザイン文化の変化」──デザイナー以外への広がり
Affinityが無料になったことで、デザインに触れるハードルが大きく下がりました。その結果、
- 企画担当が自分で簡単なイメージボードを作る
- マーケティング担当が広告イメージのたたきをつくる
- 営業担当が提案資料のビジュアル改善に挑戦する
といったように、「デザインに参加する人の層」が広がっていく流れになると思います。

これはデザイナーの立場から見ても大きなメリットがあります。
制作に携わる人が増えることで、イメージの共有が早くなり、方向性のズレが少なくなるため、最終的にデザインの質も上げやすくなるからです。
デザインは専門職の領域でありながら、コミュニケーションの基盤でもあります。
ツールの無料化は、チーム全体の視覚的リテラシーを底上げし、プロジェクトの進行をよりスムーズにするきっかけになると感じています。
まとめ──ツール無料化時代に求められるクリエイティブの本質
Affinity無料化をきっかけに、私自身もデザイン環境をあらためて見直す機会になりました。
どれだけツールが進化しても、デザインの目的は「情報を整理し、相手に正しく伝えること」です。
だからこそ、環境が変わるタイミングを前向きに捉え、制作体制の柔軟性を高めることが大切だと感じています。
今後も、Adobe・Affinity・AIを適材適所で活用しながら、制作の効率化と品質向上に取り組んでまいります。
デザインに関するお悩みや業務改善、AIツールの活用など、もしご興味がありましたら、ぜひお気軽にライフエスコートまでご相談ください。
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